外国の樹木についての質問とお答え


 オーストリアン・オーク

 HP拝見し、植物や樹木について勉強になりました。 いきなりで申し訳ないのですが、個人的に前々から わからないことがあり、教えていただきたく メールしました。
 アーノルドシュワルツネッガーはご存知だと思いますが、 彼がボディビルをやっていたときのあだ名が 「オーストリアン・オーク」というものでした。 これは、アーノルドの出身地がオーストリアで、ボディビルの ポーズをとるとき、そのタクマシイ姿がオーク(の木)の姿形に 例えられたことからきているようです。 この「AustrianOak」という言葉の日本語訳で、 「オーストリアの樫の木」と書かれたものを見たことがあるのですが、 オークとは樫なのでしょうか?いろいろ調べてみると、 オークとは材の感じが似たものの総称(日本でいうミズナラ含む)であるとか、 ヨーロッパに固有で日本にはない種類のオークという木があるとか、 いろいろ書かれているようで頭が混乱してしまいます。 いったい「オーストリアン・オーク」とは何の木なんでしょう??? 参考のため、アーノルドがそのあだ名にちなんで「その木」といっしょに オーストリアで撮影された写真が下のURLにあります。葉しか見えないですけど。

アーノルドの写真

 お答え

  1 オーストリアオーク Austrian oak は、欧州に産するオークで学名を Quercus cerris という木のようです。

 植物学的には、ブナ科(Fagaceae)のコナラ属(Quercus)に属します。 このコナラ属は、北半球を中心に200種以上ありまして、 アメリカや欧州にもかなり分布しています。

 オーストリアに生えているオークは、 Quercus petraea と  Quercus  robur の2種が多いようです。 従って、オーストリアのオークと言えば、 普通はこの2種を指すのではないかと思います。 (日本のナラと言えば、ミズナラやコナラというような意味ですが)

Quercus cerris というオークは、インターネットにAustria Oakと 出ていましたが、 これをTurky Oak という名で紹介しているインターネットもあり、 Quercus cerris がAustria Oakだと私には断定できません。   以下に Quercus cerris という種が出ているページを挙げておきます ので読んでみてください。

Quercus cerris
Quercus cerris 2
Quercus cerris 3
Austria Oak
Arnold Schwarzenegger, nicknamed The Austrian Oak

 2 日本のコナラ属は大きく2つに分かれ、

(1)コナラ亜属 多くは落葉樹で、コナラ Quercus serrata、ミズナラ  Quercus mongolica、 カシワ Quercus dentata、クヌギ Quercus acutissima、ナラガシワ Quercus  aliena、 アベマキ Quercus variabilis、ウバメガシ Quercus phillyraeoides(これだけ は常緑)、 などで、英語では、このように落葉のコナラ亜属の種を oak といいます。 家具や酒の樽などに広く使われ親しまれています。日本語では、一般にナラ(楢)と いいます。

(2)アカガシ亜属  常緑で日本語では、一般にカシ(樫)と言います。 イチイガシ Quercus gilva、 アカガシ Quercus acuta、アラカシ Quercus  glauca、 シラカシ Quercus myrsinaefolia、 ウラジロガシ Quercus salicina、  ツクバネガシ Quercus sessilifolia などです。

(3) oak を訳す時に翻訳者が植物を良く知らず、oakをカシと訳してしまったの が混乱の始まりです。有名な権威のある英和辞書もこの間違いをしているものがあるの でそれがそのままに伝わります。

 このような例はかなりあり、cedar をスギとかヒマラヤスギとしか訳していない英和辞書もありますが、 米国では、cedarは、ヒノキ科の葉が鱗状の針葉樹をも言い、 これは、日本語には適した語はないのですが、 強いて言えば、ネズコとかクロベなどになります。

 工藤夕貴の主演した映画、Snow Falling on Cedars を 邦題ヒマラヤ杉に降る雪と訳した誤訳もあります。
ヒマラヤスギは、マツ科ですが、その名の通り、ヒマラヤ周辺が産地です。 最近は、世界中の公園などに植えられていますが、この映画の舞台となった 米国のワシントン州オリンピック半島付近には、自然にはヒマラヤスギはありません。
あの辺は、このネズコ類のアメリカネズコ Western Red Cedar( Thuja plicata)、 やトウヒSpruce (Pecea sp.)、の大森林地帯です。このアメリカネズコは、材木屋さんがベイスギ(米スギ)と名づけて大量に日本に輸入されてます。
英和辞書が cedar をヒマラヤスギ(Cedrus deodora)やスギとしか訳していませんので、 このような自然植生を理解してない映画の題になってしまいます。

 もっとも外国産の植物は、日本にないものが多く、したがってそれに相当する日本 語もなく、似たものを借りたり、原語をそのままカタカナで書いたり、色々です。 (訳者に植物の知識がなく、混乱した紛らわしい訳は、しょっちゅうです。) oakなどもカシと訳すと、常緑の樫と間違えるので、オークのままが良い場合もあり ます。訳すならナラ(楢)と訳さねばなりません。  いずれにしろ、英語のoakは、植物学的には(1)のコナラ亜属を指します。



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